医薬分業が始まり調剤薬局という業態スタートしたのが1980年代。分業が進むにつれ1990年代以降は調剤薬局がどんどん増えています。黎明期に開設した調剤薬局の創業者は60代となり、事業承継を考えるタイミングに差し掛かっています。
調剤薬局は大病院の門前薬局を除いては処方元のクリニックのドクターと二人三脚で患者さんに向き合い、マンツーマンで成り立っているケースがほとんどです。
ドクターとの兼ね合いもあって自分だけ勝手に辞める(閉める)というわけには、なかなかいきません。
そこで誰かしらに薬局を引き継いでもらう(事業承継)ことが一般的になっています。
事業承継に際しては下記のいずれかを選択することになります。
ご子息に引き継いで欲しい、引き継ぎたいという気持ちが合えば無論OKです。
薬局業界は2代目社長が大変多い業界です。ただし、今後は薬局経営の舵取りが難しくなっていくため覚悟と才覚が必要になります。親の時代と同じ運営スタイルでは先細りになっていく可能性が高いといえます。
特にご子息が非薬剤師の場合で1,2店舗といった小規模の場合には、薬剤師の確保をはじめとした薬局運営に大変な苦労をする可能性が高いことも考慮して、承継するかしないかを決める必要があるでしょう。
一緒に働いてきた薬剤師に薬局を継いでもらう。
これも承継の有力なパターンのひとつといえます。
ただし、承継にあたっての譲渡対価があまり期待できませんので、その点は覚悟しておかないとなりません。利益の出ている薬局を譲渡するに際して、従業員が負担できる範囲で安く譲っても良いというオーナーであればとくに問題ないのですが、M&Aと比べて条件が大きく劣る点は否めません。
また、引き継ぐ従業員のほうも思った以上に安く譲り受けられると考えていることが多いために条件面で合意できずにM&Aに移行するケースもしばしば見受けられます。
営業権(のれん代)が付いた形で売買されることが一般的である調剤薬局オーナーにとって、営業権はいわば退職慰労金のようなものです。
従業員承継の場合には、多額の営業権はつけられないケースがほとんどでしょうから
現実問題として退職金が減ってしまうということになります。
もっとも長く勤めてくれた従業員へのご褒美(のれんわけ)という側面もありますから、経済的な条件だけで判断することでもないとは思いますが、大きな差があるようであればM&Aを考えようというのが普通の感覚だと思います。
薬局のM&Aは創業者の後継者の問題を解決しつつ、ハッピーリタイアするための有力な選択肢として活発に行われています。立地や処方箋応需枚数、損益状況にもよりますが、黒字の場合には相応の営業権(のれん代)がついて売買がなされています。
調剤薬局は現在のところ買いたいというニーズが強く営業権(のれん代)がもっとも高い業種のひとつとなっています。
後継者問題を解決するため、創業者として作り上げてきた薬局をある程度満足のいく条件で安心できる第三者に譲渡し、残していく方法が、薬局のM&Aということになります。
分業率が7割に達しており、調剤薬局の新規出店余地が限られてきています。業容拡大のため出店戦略のひとつとしてM&Aを活用しているチェーン薬局が数多くあります。いわば既存の薬局を譲り受けることで「成長のための時間を買う」ということになるでしょうか。
新規出店して、薬局を軌道に乗せるまでの労力、コストは大変なものです。最近は新規で同時に開業したクリニックに想定以下の患者しか来てくれないということがよくあります。
また患者側もすでにかかりつけ薬局を持っていることも多く、処方箋枚数が伸びてこないまま赤字経営を余儀なくされるケースも増えています。既存の薬局であれば既に業績が見えているため、安心して取り組めるというメリットもあります。