Ｔ薬局はＴ社長（７０代、薬剤師）と娘さん（薬剤師）で運営している薬局で、開設以来３０年に亘って地域住民の健康を支えてこられました。年間で約３００の医療機関から処方せんを応需している面対応の薬局です。

開設当初は駅周辺に薬局が３軒しかなかったそうですが、どんどんと増えて今では実に１５軒の薬局がひしめいている激戦区となっています。年々増加する薬局、さらに３年前に大手チェーン薬局が面対応の薬局を近隣に出店した影響などもあり毎年売上が減少していました。

後継候補となる娘さんも薬剤師としてＴ薬局に勤務しておられたので、Ｔ社長には跡を継いで欲しいという気持ちもあったと思いますが、事業承継についての家族会議の結果、「引き継いで運営していく自信がない」ということで跡を継がず、薬局は第三者に譲渡して運営していってもらうのがベストという結論に至ったのでした。

処方箋枚数、技術料は年々減少していましたが、中小・中堅チェーン薬局が運営するには十分な処方箋枚数と技術料はなんとか確保していました。属人性が強い点は気になりましたが、薬剤師確保も比較的容易なエリアであることから、良い相手が出てくるだろうと思ってお引き受けしました。

ある程度の想定はしていましたが、買い手側の見方は競合薬局に立地が劣る中で患者が来てくれているのは家族経営だからで、ご家族が皆辞めてしまうと数字の維持が難しいのではないかという反応が非常に多く、思っていた以上に難航した案件となりました。

Ｔ社長には条件面でずいぶんと譲歩して頂いたので、中小チェーン１社（Ｋ社）と中堅チェーン１社が最終的に名乗りをあげてくれました。従業員さんとの相性等も考慮に入れて中小チェーン（Ｋ社）をお相手として選択され、このたび譲渡が無事完了したのでした。

Ｔ社長は大変な人格者で後に残る従業員の幸せを何よりも願う姿勢には感動しました。永年の経験に基づいた薬局あり方や医療業界に関する考え方なども学ばせて頂きました。引退後も末永くお元気でいらしていただきたいと思います。

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